大阪地方裁判所 平成2年(ワ)5044号 判決 1996年2月19日
原告
甲野春子
右輔佐人
甲野一郎
被告
株式会社ダイエーコンビニエンスシステムズ
右代表者代表取締役
松岡康雄
右訴訟代理人弁護士
小川邦保
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、原告に対し、金四億六一二二万円及び内金四億一〇八七万円に対する平成二年七月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
主文と同旨
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 当事者
(一) 原告は、サラリーマンの夫をもつ専業主婦であり、従来小売業などの商業を営んだ経験はなく、他に事業を手がけた経験も全く有しなかった。
(二) 被告は、食料品及び日用雑貨品等の販売並びにコンビニエンス・ストア(長時間営業の小規模総合小売店)に対する技術援助及び指導等を目的として、昭和五〇年四月一五日に設立された株式会社であり、設立当初の商号は「ダイエーローソン株式会社」であったが、昭和五四年九月一日、商号を「株式会社ローソン・ジャパン」に変更し、さらに、平成元年三月一日、「株式会社ダイエーコンビニエンスシステムズ」に変更して現在に至っている。
被告は、設立以後、「ローソン」なる商標又はサービスマークを使用して、全国ネットのコンビニエンスストアを自ら直営し、もしくはフランチャイズ制によって加盟者にこれを経営させている(以下、被告とフランチャイズ契約を締結して「ローソン」という商標を使用したコンビニエンスストアを単に「ローソン店」という。)。
2 ローソン育和公園店の開店及び閉店
(一) 原告は、原告の夫所有の大阪市東住吉区杭全所在の自宅兼貸店舗建物の一階部分約一三〇平方メートルについてテナントを募集するため、昭和五四年七月ころ、被告に対して貸店舗部分について入居募集のビラを送付した。
(二) これを受けて被告従業員の北尾豊一(以下「北尾」という。)は、原告と面談し、何ら立地調査を行っていないにもかかわらず、立地条件が悪いのでテナントは入らない、原告がローソン店を直接経営せよと迫り、原告が被告以外の他のテナントの紹介を依頼したのに対し、他のテナントは絶対に入らない、このままでは原告は破産するしかないなどと言いながら、見積損益計算書等を示し、売上は初年度から一〇〇〇万円を見込める、原告の借入金を返済した上でなお利益が出る、ローソン店を経営すれば他の如何なる事業企画よりも高収益が安定確実に得られる、ローソン店は被告独自のノウハウに基づいて経営の指導及び援助を行うから事業経験をもっている人よりも素人の方がうまくいく、被告が重役会議を経て責任をもって成功を請け負うなどといって勧誘した。原告は、右勧誘によってローソン店を経営すれば利益が挙げられると確信し、被告とのフランチャイズ契約の締結を決意した。
(三) そこで原告は、昭和五四年九月二二日、被告との間で、以下の記載を主たる内容とするフランチャイズ契約(以下「育和公園店契約」という。)を締結し、同年一一月二三日、ローソン育和公園店(以下「育和公園店」という。)を開店した。
(1) 原告は、育和公園店の店主となり、自己の経営責任において経営する。
(2) 被告は、原告に対し「ローソン」なる商標・マークの使用を認め、第三者の統一的イメージを確保する。
(3) 被告は、育和公園店の営業地域(半径五〇〇メートル以内の地域の一五〇〇世帯居住地域)には、他社との競合関係において重大な変化が生じない限り、自らの出店及びフランチャイズ出店をしない。ただし、右営業地域又はその周辺地域に他社が進出することにより、競合関係に重大な変化が生じた場合、著しい世帯数の変動のある場合又はそのように予測される場合に、被告が戦略上新規出店を要すると判断したときは、被告は事業計画を立案の上、原告がフランチャイズによる新規出店を優先的に実施できるようにする。原告は、自らの都合により新規出店が不可能な場合には、被告自らの出店又はフランチャイズ出店を認める。
(4) 被告は、原告に対し、②店舗の建設、改造及び改装、②売場構成、商品供給、商品配置、商品陳列、商品管理及び設備機器類、③開店、④教育研修、⑤販売促進活動、⑥経理会計業務、⑦その他店舗運営に関し、原告を指導援助する。
(5) 原告は、被告に対し、被告が加盟店に提供する指導援助、サービスの対価としてローソン・チャージ(以下「チャージ」という。)を支払う。
(四) 原告は、昭和六三年一〇月三一日、育和公園店を閉店した。
3 被告によるローソン杭全店の出店
被告は、原告が育和公園店を営業中の昭和六〇年一〇月ころ、ローソン育和公園店の直近の場所に「ローソン杭全店」(以下「杭全店」という。)を出店した。
4 ローソン谷六店の開店
(一) 原告は、右杭全店の出店が育和公園店契約違反であるとして、被告に対し強く異義を申し入れたところ、被告は、原告をなだめるため、大阪市南区の地下鉄谷町六丁目駅の出入口において直営しているローソン谷町六丁目店(以下「谷六店」といい、育和公園店と併せて「原告各店」という。)の経営権を原告に譲ると持ちかけ、谷六店は被告直営店の中でも屈指の高業績店であること、業績は将来にわたって更に向上する見通しであること、被告会社においては同店を中心とする半径1.2キロメートル以内には新たな出店をしないこと、原告が同店を経営すれば育和公園店での損失を全部取り戻した上で更に確実に利益を獲得できることなどを挙げて、原告に谷六店を経営するよう勧誘し、原告は右勧誘を信頼して谷六店について契約締結を決意した。
(二) 原告は、昭和六一年一〇月三〇日、被告との間で谷六店についてのフランチャイズ契約(以下「谷六店契約」といい、育和公園店契約と併せて「本件各契約」という。)を締結した。その内容は、以下の(1)及び(2)を除いては、育和公園店契約とほぼ同内容である。原告は、同日から谷六店の経営を開始して現在に至っている。
(1) 原告は、谷六店の営業地域について、原告以外のすべての者に対し地域を画し、谷六店の営業に関し独占的排他的権利等を取得するものではなく、被告は、如何なる地域にも、被告自らの出店及びフランチャイズ出店をすることができる。
(2) 被告は、原告に対し、前記2(三)(4)の①から⑦の指導援助の他、⑧店舗の販売用送品及び営業用消耗品の仕入先推薦に関し、指導援助を行う。
5 被告の債務不履行
(一) 原告に対する情報提供義務違反
(1) 被告は、中小小売商業振興法一一条及び社団法人日本フランチャイズチェーン協会倫理綱領に基づき、フランチャイズ契約締結に先立って、原告がフランチャイズに加盟するか否かの判断を適正なものとするために、開店後の売上、諸経費、収益に関する見通しについて、慎重かつ緻密な調査によって得られた客観性のある具体的資料に基づく合理的で確実性のある数値を提供すべき義務を負う。
しかるに、被告従業員北尾は、昭和五四年八月ころ、原告に対し、見積損益計算書等を示し、ローソン開店初年度から売上金一〇〇〇万円を見込める、育和公園店の開店に際し二一八〇万円の借金が必要であるとしても、右借金の返済分を含めてもなお利益が出る、この数字は確実な調査に基づくものであるなどと根拠のない売上、利益の見通しを告げ、また原告建物の立地条件では他のテナントは入らないなどと虚偽の事実を申し向け、その結果原告は、北尾が示した予想売上高を達成できるものと信じ、育和公園店契約を締結した。
(2) 被告は、フランチャイズ契約締結に際しては、契約書等が膨大な数量であることから、原告がその意味を理解し、真に任意の意思に基づいて契約の諾否を判断するに足りる充分な説明の時間を与えるべき義務を負うにもかかわらず、育和公園店契約締結に際し、契約当日に至って突如契約書等を示し、原告が理解するに足りる十分な説明をすることなく、即日契約書に調印させた。
また、本件各契約の契約書において右契約と「一体不可分」と規定されている「教育研修規定」、「会計業務規定」、「売価変更規定」、「契約の解約・解除・罰則ならびに損害賠償に関する規定」、「在庫管理規定」及び「損害保険規定」(以下右各規定を総称して「各規定」といい、各規定を記載した書面を「規定集」という。)は、育和公園店契約の内容を把握する上で不可欠のものであるから、被告は、育和公園店契約締結の際に、原告に対し、各規定を読み上げて逐一説明をしなければならなかったにもかかわらず、被告は、各規定について何ら説明をしなかったばかりか、規定集も交付しなかった。
(二) 競合ローソン店を開店しない義務の違反
被告は、本件各契約上、原告の経営するローソンの売上に著しい影響を与えるおそれのある地域に新たに「ローソン」を開店しない義務を負う。しかるに、被告は、原告が育和公園店を経営中の昭和六〇年一〇月ころ、育和公園店の直近に杭全店を開店し、原告が谷六店を開店した昭和六一年一〇月三〇日から一年以内に谷六店近辺にローソン店を三店出店した。
(三) 指導援助義務違反
(1) 被告は、育和公園店契約上、①店舗の建設、改造及び改装、②売場構成、商品供給、商品配置、商品陳列、商品管理及び設備機器類、③開店、④教育研修、⑤販売促進活動、⑥経理会計業務、⑦その他店舗運営に関してフランチャイジーである原告を指導援助する義務を負っており、谷六店契約上は、右①ないし⑦に加えて⑧店舗の販売用送品及び営業用消耗品の仕入先推薦に関する指導援助をすべき義務を負っていたにもかかわらず、原告各店に関し何ら右指導援助をしなかった。
(2) とりわけ、原告各店が長期にわたって損失を重ねたのであるから、被告としては、その原因を究明して有効な具体的対応策を提示し、対応策を見い出し難いときは、原告に対し、早期に閉店を勧告すべきであったのに、これを怠った。
6 被告の総値入高方式によるチャージの収奪
(一) 被告がフランチャイジーから受領するチャージは、被告がフランチャイジーに提供する指導援助、サービスの対価であり、総値入高の三五パーセント相当額であるが、総値入高は、「売上高―売上原価+見切・処分の売価額+棚卸ロス売価額」という算式で算出される。ここで、「見切」とは当初売価から値下げして販売した場合の値下げ額をいい、「処分」とは賞味期限の到来により廃棄処分となった商品の売価ないし仕入額をいい、「棚卸ロス」とは、実地棚卸額と帳簿在庫高の差額をいう(以下、見切・処分と棚卸ロスを併せて「見切等」という。)。
(二) 被告は、見切等についてチャージとして取得しているのはその売価額の三五パーセントではなく荒利益相当額の三五パーセントである旨主張し、その理由として、売上原価には見切等の現価分が含まれているから、差引きすると見切等の荒利益相当額のみがチャージの対象となっていると主張する。しかしながら、当期の売上原価は売上高に対応するものでなければならず、売上原価には見切等の原価分を含めてはならない。仮に被告がこのような売上原価を採用しているとすると、それは企業会計原則の一環をなす原価計算基準に違反するものであり、本件各契約は違法無効な会計方法を採用したものとして無効である。
(三) もともと、一般に「荒利」といわれるものは、売上高から売上原価を控除したものであるから、被告が用いる「総値入高」は、右の計算式から明らかなように、一般の「荒利」に見切等の売価額を加えたものである。そうすると、被告は、チャージとして「荒利」の三五パーセントの他、見切等の売価額の三五パーセントをチャージとして取得している。
しかしながら、見切等は単なる損失であって、原告が六五パーセント、被告が三五パーセントという割合で分配できる実体がなく、そもそも現金として存在しないのであるから、被告の右総値入高の計算方法は、原告の利益にチャージをかけることに他ならず、結果として原告の損失において被告が利得する計算方法であり、かかる計算方法を採用した本件各契約は無効である。
(四) また、見切等の発生は原告の経営責任に帰すべきものではなく、被告の責任であるから、この点からも見切等にチャージをかけられる理由はなく、被告は見切等の売価額に対するチャージを返還すべき義務を負う。すなわち、大量の見切等が発生したのは、被告が商品を原告各店に配送する時間を事前の通告なくしばしば変更したためである。例えば、被告から日々配送される生鮮食料品や弁当等は、配送時間が一、二時間前後するだけでその売行きに大きな影響をもたらし、大量の見切等の発生が避けられない。このように被告は、大量の見切等を発生させる配送時間の変更を頻繁に行ってきたために原告各店に見切等が発生したのである。
(五) さらに、棚卸ロスにチャージをかけるのであれば、前提として実地棚卸が正確に実施されなければならない。しかるに被告は、棚卸を意図的に不誠実かつ不正確に行って棚卸ロスを増加させ、原告に対し、棚卸ロスにかかるチャージ相当分の損害を与えた。
(六) 被告は、通常の店舗管理を行っていれば、見切等は商品売上高の一パーセント以内にとどまるはずであることを理由に、右一パーセントまでは売価ではなく原価で計上している。しかし、被告直営店舗でさえも、見切等は売上高の一パーセントを超えており、仮に、売上高の一パーセントまでの見切等については問題がないとしても、これを超える見切等に対するチャージは不当利得である。
(七) 被告は、平成元年三月一日からチャージ率を三五パーセントから三二パーセントに引き下げたにもかかわらず、谷六店に対しては依然として三五パーセントのチャージ率を適用してチャージを収受し続けた。したがって、被告は原告に対し、同日以降の総値入高の三パーセントの合計額を返還すべきである。
7 原告の損害
(一) 育和公園店分
(1) 店舗新設及び内装工事費
一三八〇万円
(2) 育和公園店改修工事費
一四八万円
(3) 契約金及びローソン名義使用料
三〇〇万円
(4) 開店に当たっての商品代金
五〇〇万円
(5) 開店から閉店までの累積赤字
一億〇五〇二万円
(6) 原告の労働の対価(時給七〇〇円で、一日一五時間労働を七年間継続した。) 二六八二万円
(二) 訴状提出までの谷六店分
(1) 開店に伴う内装費、契約金及び在庫商品買取等 一四五四万円
(2) 開店から平成二年七月六日までの累積赤字 一〇〇〇万円
(3) 右期間の原告の労働の対価(時給七〇〇円で、一日一五時間労働を三年八か月継続した。) 一八〇三万円
(三) 訴状提出以降の谷六店分
平成二年七月七日から同五年一一月末日までの損害(育和公園店開店から訴状提出までに発生した損害(一)と(二)の合計一億五九八七万円が、その後も同じ割合で発生した。) 五〇三五万円
(四) 育和公園店開店から平成五年一一月末日まで被告に支払ったチャージ総合計 一億八九五〇万円
(五) チャージ率三五パーセントと三二パーセントの差の三パーセントにつき、平成元年三月一日から平成五年一一月末日までの合計 八三九万円
(六) 原告の慰謝料二五二〇万円
合計 四億七一一三万円
8 よって、原告は、被告に対し、前記各債務不履行ないし不当利得に基づき、右の合計四億七一一三万円の内金四億六一二二万円及び内金四億一〇八七万円に対する訴状送達の日の翌日である平成二年七月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実は認める。
2 同2(一)の事実は認める。
3 同2(二)の事実のうち、被告従業員の北尾が原告と面談したことは認め、その余は否認する。
4 同2(三)及び(四)の各事実はいずれも認める。
5 同3の事実は認める。
6 同4(一)の事実のうち、被告が原告に対し、谷六店は被告直営店の中でも屈指の高業績店であり、業績は将来にわたって更に向上する見通しであると伝えたことは認め、その余は否認する。
7 同4(二)の事実は認める。
8 同5(一)(1)の事実のうち、被告が加盟店希望者に対して一定の情報開示義務があることは認め、その余は否認ないし争う。
9 同5(一)(2)の事実は否認する。
10 同5(二)の事実のうち、原告が育和公園店を経営中の昭和六〇年一〇月ころ、被告が育和公園店の直近に杭全店を開店し、原告が谷六店を開店した昭和六一年一〇月三〇日から一年以内に、谷六店近辺にローソン店を数店開店したことは認め、その余は否認する。
11 同5(三)(1)の事実のうち、本件各契約上、被告が原告に対し①ないし⑧に関する指導援助を行うべき義務を負っていることは認め、被告に指導援助義務違反があるとの点は否認し、同5(三)(2)の事実は否認する。
12 同6(一)の事実は認める。
13 同6(二)の事実のうち、被告が、チャージとして取得しているのは、見切等の売価額の三五パーセントではなく、見切等の荒利益相当額の三五パーセントであると主張していること、その理由として、売上原価には見切等の原価分が含まれているから、差引きすると見切等の荒利益相当額のみがチャージの対象となっていると主張していることは認め、その余は否認する。
14 同6(三)ないし(五)の事実及び主張は、いずれも否認ないし争う。
15 同6(六)の事実のうち、被告が、通常の店舗管理を行っていれば見切等は、商品売上高の一パーセント以内にとどまるはずであることを理由に、右一パーセントまでは売価ではなく原価で計上していることは認め、その余は否認する。
16 同6(七)の事実は否認する。
17 同7(一)ないし(六)の事実及び主張はいずれも争う。
三 被告の主張
1 育和公園店に関するフランチャイズ契約を締結するに至った経緯
(一) 原告の夫である甲野太郎が約五五〇〇万円の資金を投入して建築した自宅(三階及び四階部分)兼貸店舗(一階及び二階部分)建物の貸店舗部分に借り手がつかなかったため、原告は、昭和五四年七月下旬、被告に対して貸店舗部分をローソンの直営店とすることを希望して入居募集のビラを送付した。これを受けて被告従業員の北尾及び山本三四郎(以下両名を「北尾ら」という。)は、右建物に赴いて立地調査をした上、原告と面談し、立地条件が悪いので被告が直営店として賃借することは無理である旨説明したところ、更に原告から被告以外の他の賃借人の紹介依頼を受けたが、北尾らは、住宅地域であり他の賃借人の入居もあまり期待できないこと、原告自らフランチャイジーとしてローソンを経営するのであれば家賃が発生しないので考慮に値することを説明し、原告に対してフランチャイジーになるか否かの検討の機会を与えた。
(二) 被告担当者は、原告から同年八月初旬にフランチャイジーになる意思がある旨の連絡を受け、同月七日ころ、原告を訪れて、被告の会社概要、フランチャイズシステムの概要及び募集用パンフレットを示し、原告が前記貸店舗部分でローソンを開店した場合の予想売上高、経費及び利益や、売上高が低い場合の特別経費分担制度の説明を行った。
(三) その後、被告が内部で原告とのフランチャイズ契約締結の可否につき議論した結果、右店舗の月売上高が一〇〇〇万円に達しない見通しであったことを理由として一旦はフランチャイズ契約不可の結論に至ったので、被告従業員の北尾らは、昭和五四年八月ころ、原告に対し、特別経費分担制度の適用を受けることになってもフランチャイズ契約を締結する意思があるか否かを尋ねたところ、原告はそれでも契約の締結を希望した。そこで、被告は内部で再び検討して、原告とのフランチャイズ契約締結を決定し、育和公園店契約締結に至った。
2 競合ローソン店の出店と売上高の減少
(一) 原告は、被告と交わした昭和六〇年六月四日付けの覚書により、杭全店の出店について同意していたものである。
(二) 育和公園店の昭和五八年度の売上高は八九六二万一三〇五円であったが、昭和五九年度には七二三三万〇一六八円に減少している。昭和五九年度に育和公園店の近隣に競合店の出店があったわけではなく、売上高減少の理由がないから、この売上高減少は、原告の売上不正操作によるものと考えられる。そして、売上高は、昭和六〇年度には六四八五万二八三八円、昭和六一年度には五六一八万〇二九五円となって更に減少している。
ところで、杭全店が開店したのは昭和六〇年一一月であり、育和公園店の売上高が右杭全店の出店によって最も影響を受けた昭和六一年度の売上高の前年度と比較しての売上高の減少率よりも、昭和五八年度から昭和五九年度への売上高の減少率の方が大きい。そうすると、昭和六一年度の売上高減少は、杭全店の出店に原因があるのではなく、むしろ原告の売上高不正操作に起因するものであり、杭全店の出店と育和公園店の売上高減少との間には、因果関係がない。
3 指導援助義務違反について
被告は、原告に対し、本件各契約に基づき、以下の指導援助を行っており、指導援助義務を尽くしている。
(一) 店舗の建設、改造及び改装に関する指導援助
被告が、ローソン仕様の店舗レイアウト図を作成し、専門的立場からコンビニエンスストアの店舗建設を指導した。
(二) 売場構成、商品供給、商品配置、商品陳列、商品管理及び設備機器類に関する指導援助
被告は、原告に対し、商品の陳列方法や特別価格商品等の記載のあるウィークリーレポートや新商品台帳兼発注控を毎週送付し、商品台帳兼発注控を毎月一回送付して、商品情報を提供するとともに商品仕入れの便宜を図っている。
(三) 開店に関する指導援助
被告は、育和公園店が新規開店する際、広告やオープンセール商品の供給を行った。
(四) 教育研修に関する指導援助
被告は、原告に対し、合計一〇日間のオープン前研修を実施した。
(五) 販売促進活動に関する指導援助
被告は、ローソンのイメージを定着させるためのテレビ・ラジオ等の広告や、ローソンという冠称を付したイベントを行った他、各季節に合わせた広告内容等を記載した店頭幕、ポスターを原告に配付した。
(六) 経理会計業務に関する指導援助
被告は、原告の仕入商品の代金支払を代行しているほか、毎月の損益計算書や貸借対照表等の財務諸表の作成を行っている。
(七) その他店舗運営に関する指導援助
スーパーバイザーと称する被告の担当者が、月四回程度原告各店を巡回し、商品陳列方法、販売方法及び売上金管理等について、改善を要する点を記載したスーパーバイザーレポートを作成して、原告に閲覧させている。
4 チャージについて
被告がフランチャイジーから受領するチャージは、被告がフランチャイジーに提供する指導援助、サービスの対価であり、総値入高の三五パーセント相当額である。総値入高とは、「売上高―売上原価+見切・処分(売価)+棚卸ロス(売価)」という算式で算出される。
ここで、見切等を加算しているのは、見切等の荒利益相当分をチャージの対象とするためである。そして、見切等の荒利益相当分をチャージの対象とするのは、発注仕入後の商品の管理はフランチャイジーが責任を負うものであり、当然チャージの対象としてよい上、ローソン店において商品が実際には売れているにもかかわらず、被告に売上報告しなかったり、実際には売価一〇〇円の商品を値引きせずに一〇〇円で販売したにもかかわらず六〇円で販売したとして被告に売上報告したり、商品を実際に販売したにもかかわらず、売れ残って廃棄したことにする処理をするなどして、加盟者が売上高を過小に報告して不正にチャージの支払を免れるのを防止するためでもある。このような理由から、見切等の荒利益相当分をチャージの対象としているのであるから、チャージの算出方式は、全く正当なものである。
しかも、被告は、昭和六一年三月一日から、見切等の荒利益相当分の全額をチャージの対象とするのではなく、見切等のうち、売上高の各一パーセントまでは、それぞれ原価計上することにより、チャージの対象としないこととしている。これは、ローソン店において通常の店舗管理運営を行っていれば、見切等は売上高のそれぞれ一パーセント以内に収まるはずだからである。
第三 証拠
本件訴訟記録中の書証目及び証人等目録の記載を引用する。
理由
一 育和公園店契約の締結等について
1 請求原因1(当事者)の事実、同2(ローソン育和公園店の開店及び閉店)の事実のうち、被告従業員の北尾が原告と面談した内容及び原告がそれによって被告とのフランチャイズ契約の締結を決意したことを除くその余の各事実については当事者間に争いがない。
2 右争いがない事実に、証拠(甲一三、一四、証人北尾)及び弁論の全趣旨を総合すれば、原告と被告が育和公園店契約を締結するに至った経緯について以下の事実が認められる。
(一) 原告の夫である甲野太郎が約五五〇〇万円の資金を投入して建築した自宅(三階及び四階部分)兼貸店舗(一階及び二階部分)建物の貸店舗部分に借り手がつかなったため、原告は、昭和五四年七月下旬、被告に対して貸店舗部分をローソン直営店とすることを希望してビラを送付した(争いがない)。
(二) これを受けて被告従業員の北尾らは、右建物に赴いて原告と面談の上、立地条件が悪いので被告が直営店として賃借することは無理である旨説明したところ、更に原告から「一階の借り手がいない、借入金が、五、六千万円あり返済もあるのでなんとかならないか。」などと言われ、被告以外の他の賃借人の紹介を依頼された。しかし、北尾らは、住宅地域であり他の賃借人の入居もあまり期待できないと答え、原告が自らフランチャイジーとしてローソン店を経営するのであれば、家賃が発生しない分経費が減少するので考慮に値すると説明した(証人北尾)。
(三) 北尾らは、原告から、同年八月初旬に、フランチャイジーになる意思がある旨の連絡を受け、原告を訪れて、被告の会社概要、フランチャイズシステムの概要、募集用パンフレット及び東住吉区杭全店見積計算書・見積損益計算書(杭全店は仮称であり育和公園店のことであるので、以下「育和公園店見積計算書」という。)を示し、原告が一〇〇〇万円を借り入れて前記貸店舗部分でローソン店を開店した場合、一年目には月売上高一〇〇〇万円、店利益として月額七八万九〇〇〇円、二年目、三年目には、月売上高が一二〇〇万円及び一五〇〇万円、月店利益が一〇七万七〇〇〇円及び一四七万九〇〇〇円が期待できること、他のテナントに貸した場合の家賃収入として月額二七万円が見込めるが、ローソン開店に伴う一〇〇〇万円の借金の返済は月額一五万七〇〇〇円及びローソン店の従業員の給料として月額二〇万円に過ぎず、月店利益から右返済額及び給料を差し引いた四三万二〇〇〇円がオーナーの収入として見込めるから他のテナントに貸した場合よりも一六万二〇〇〇円多い収入が見込めることを説明した。また、加盟店の年間収入(総値入高の六五パーセント)が一三五〇万円に達しない場合でも、加盟店の年間収入と一三五〇万円の差額を被告が負担するという特別経費分担制度があることの説明を行った(甲一三、一四、証人北尾)。
(四) その後、被告は、同月二一日頃、原告とのフランチャイズ契約締結の可否につき社内で議論した結果、原告店舗の予想売上高が高くとも一日二〇万円すなわち月額六〇〇万円程度であって、特別経費分担制度が適用される可能性が高いとして、フランチャイズ契約不可の結論に至り、北尾は、加盟店の月額収入の欄を一一二万五〇〇〇円(年間一三五〇万円)に変更した育和公園店見積計算書(以下「第二次案」という。)を原告方に持参し、さらにフランチャイジーとなるよう勧誘した(証人北尾)。
(五) 北尾らは、同月二二日ころ、原告宅を訪問したところ、原告は、二、三日後、契約を締結したいという希望を北尾らに伝えてきた(証人北尾)。
(六) そこで、被告は、同月二八日ころ、内部で第二次案を検討し、原告とのフランチャイズ契約締結を決定し、その後育和公園店契約締結に至った(証人北尾)。
二 情報提供義務について
1 請求原因5(一)の事実のうち、被告が加盟店希望者に対して一定の情報開示義務があることについては当事者間に争いがない。
2 ところで、本件契約を含め一般にフランチャイズ契約とは、フランチャイザーが、加盟者であるフランチャイジーに対し、一定の地域内で、自己の商標、サービスマークその他自己の営業の象徴となる標識及び経営のノウハウを用いて事業を行う権利を付与することを内容とする契約をいい、フランチャイズ契約においては、フランチャイザーにとってはフランチャイジーの資金や人材を利用して事業を拡大することができる点が、フランチャイジーにとっては、フランチャイザーの商標、サービスマークが使用できること及びフランチャイザーの指導、援助を期待できる点が重要となっている。
そして、フランチャイジーになろうとする者にとっての最大の関心事は、通常、加盟後にどの程度の収益を得ることができるかどうかの点であると解されるから、契約を締結する段階において、フランチャイザーがフランチャイジーになろうとする者に提供する当該立地条件における出店の可能性や売上予測に関する情報は、フランチャイジーになろうとする者が契約を締結するか否かの決断に当たり重要な資料となる。しかも、フランチャイザーは、蓄積したノウハウ及び専門的知識を前提に独自のフランチャイズシステムを構築しているのに対し、フランチャイジーになろうとする者は専門的知識はもちろん、右フランチャイズシステム自体についても乏しい知識しかないことが多い。したがって、フランチャイザーは、フランチャイズ契約を締結する段階において、フランチャイジーになろうとする者に対し、当該立地条件における出店の可能性や売上予測等に関する情報、加盟に際し徴収する加盟金の額及び契約期間中にフランチャイザーに対して支払う金銭の額、加盟者に対する商品の販売条件、経営指導を行う事項等について、できる限り客観的かつ正確な情報を提供する信義則上の義務を負っているというべきである。中小小売商業振興法一一条が、フランチャイズ等への加盟に際し、フランチャイザーは、加盟しようとする者に対し、(一)加盟に際し徴収する加盟金、保証金その他の金銭に関する事項、(二)加盟者に対する商品の販売条件に関する事項、(三)経営の指導に関する事項、(四)使用させる商標、商号その他の表示に関する事項、(五)契約の期間並びに契約の更新及び解除に関する事項等について記載した書面を交付し、その記載事項について説明をしなければならない旨規定し、社団法人日本フランチャイズチェーン協会倫理綱領が同様に正確な情報の提供を義務付けているのも、右の趣旨において理解すべきである。
もっとも、右法律は、行政上の取締法規又は営業準則としての性質を有するにすぎないのであるから、フランチャイザーがこれらの定めに違反したか否かを形式的にみることによって私法上の違法性の有無を決すべきではないことはいうまでもない。フランチャイズ契約においては、本件契約を含め、フランチャイザーとフランチャイジーは、基本的には独立した事業体であり、フランチャイジーは自己の責任により経営を行うものであって、フランチャイズ契約締結に際してフランチャイザーが提供する前記の情報についても、加盟しようとする者において検討の上で自らの判断と責任においてフランチャイズ契約を締結しているものと解するのが相当であるから、前記情報が虚偽である等、フランチャイジーになろうとする者にとってフランチャイズ契約締結に関する判断を誤らせるおそれが大きいものである場合に限って、右信義則上の義務違反となり、フランチャイザーはフランチャイジーが被った損害を賠償する責任を負うものというべきである。
3 そこで検討するに、前記認定事実によれば、確かに、北尾らが原告に示した育和公園店見積計算書にはローソン開店に伴う一〇〇〇万円の借金を返済しながらでもなお利益があるという見積となっている。これに対して、証拠(甲二〇〜二二、乙二一、二二)によれば、育和公園店の昭和五六年の年間売上高は約九六三四万円で、総値入高は約一八九二万円であること、被告作成の精算書によれば、昭和五八年は年間売上高は約八九六二万円で、総値入高は約一三四一万円であること、昭和五九年は年間売上高は約七二三三万円で、総値入高は約一〇四五万円である(原告作成の青色申告書によれば、昭和五八年は年間売上高は約九三六七万円、総値入高は約二四八一万円、昭和五九年は年間売上高は約七二三三万円で、総値入高は約二〇九九万円である。)ことが認められる。総値入高の六五パーセントが一三五〇万円を超えるためには総値入高が約二〇七七万円なければならないところ、被告作成の精算書によると、昭和五六、五八及び五九年は、いずれも総値入高がそれ以下であり、特別経費分担制度の対象となっていたことが認められる。
しかしながら、原告作成の青色申告書によれば、昭和五八及び五九年には、総値入高が二〇七七万円を超えており、特別経費分担制度の対象にならない額の店収入があった旨所得申告していること、育和公園店見積計算書は第一次案であって、被告内部の会議において、右見積計算書記載の売上額が現実には期待できず、特別経費分担制度の適用が予想されることを理由に一旦はフランチャイズ契約不可の結論に至り、そのことが原告に伝えられたこと、第二次案を伝えられた後に原告はフランチャイズ契約を締結していることが認められる。そうすると、被告及び原告は、育和公園店が特別経費分担制度の適用店となることを予想していたのであり、原告に対し、根拠のない虚偽の売上予想を告げた等のフランチャイズ契約締結に関する判断を誤らせるおそれが大きい情報を提供したとはいえないから、原告の主張は理由がない。
これに対し、原告は、育和公園店の開店に際し二一八〇万円の借金が必要であったところ、被告はこれを知りながら右借金の返済分を含めてもなお利益が出るといって勧誘したのであるから、被告が虚偽の事実を告げて勧誘したものである旨主張するが、証拠(甲一四)によれば、被告は原告の育和公園店開店に必要な借金として一〇〇〇万円を前提として見積もっていたものであり、二一八〇万円の借金が必要であることを前提に利益が出るといって勧誘したものではないし、被告が当時の原告の総借入額を知っていたことを認めるに足りる証拠もないから、被告が虚偽の事実を告げて原告を勧誘したものとは認められない。
また、原告は、被告が原告建物の立地条件では他のテナントは入らないと告げたのは、その後現実にテナントが入ったことからすれば、虚偽の事実を告げたものである旨主張する。確かに、証拠(検乙一)によれば、育和公園店閉店後に同じ場所に何らかのテナントが入ったことが認められるものの、前記認定によれば、北尾らは、原告建物の所在地が住宅地域であることから他の賃借人の入居もあまり期待できない旨北尾らの判断を告げたにとどまるというべきであって、殊更に他のテナントの入居はあり得ない旨虚偽の事実を告げたものではないから、原告の主張は理由がない。
4 また、原告は、「被告は、育和公園店契約締結に際し、契約当日に至って突如契約書等を示し、原告が理解するに足りる十分な説明をすることなく、また、本件各契約締結の際、会計業務規程等の各規定について何ら説明することなく契約書に調印させ、契約締結後も規定集を交付しなかった」旨主張する。
証拠(甲一、五、乙四〇、四一)によれば、各規定は、加盟に際し徴収する加盟金の額及び契約期間中にフランチャイザーに対して支払う金銭の額、加盟者に対する商品の販売条件、経営指導を行う事項等について、本件各契約書の各条項についての細目を規定したものであることが認められるところ、証拠(乙四〇、四一)によれば、原告は、本件各契約締結の際、各規定集に自署していることが認められ、その内容については一応確認したものと認められ、逐一口頭で説明を受けなかったとしても、各規定の規定事項に照らして情報提供義務違反があったとまではいえない。また、被告は原告に対し右各規定集を交付する義務があるとも主張するが、規定集の交付については本件各契約においては何も規定されていないことが認められるから、被告は原告に対し右各規定集を交付する義務までは負わないというべきである。
5 以上によれば、育和公園店契約締結前における被告の情報提供義務違反をいう原告の主張は、いずれも理由がない。
三 競合店の出店について
原告は、被告が本件各契約上の義務に違反して、育和公園店及び谷六店の近辺にローソン店を出店した旨主張するので検討する。
1 育和公園店について
請求原因2(三)(3)の事実、すなわち、育和公園店契約中、被告は、育和公園店の営業地域(半径五〇〇メートル以内の地域の一五〇〇世帯居住地域)には、他社との競合関係において重大な変化が生じない限り、自らの出店及びフランチャイズ出店をしないが、右営業地域又はその周辺地域に他社が進出することにより、競合関係に重大な変化が生じた場合、著しい世帯数の変動のある場合又はそのように予測される場合に、被告が戦略上新規出店を要すると判断したときは、被告は事業計画を立案の上、原告がフランチャイズによる新規出店を優先的に実施できるようにし、原告は、自らの都合により新規出店が不可能な場合には、被告自らの出店又はフランチャイズ出店を認める旨の条項が存在すること、及び同3(杭全店の出店)の事実は当事者間に争いがない。
しかしながら、弁論の全趣旨によれば、被告は杭全店の出店について原告に対して協力を求め、被告が杭全店出店に関して原告の救済手段を五通り定め、原告の選択に委ねる旨の合意が昭和六一年八月四日に成立したこと、原告は右救済手段のうち、育和公園店の経営を継続しつつ、当時被告の直営店であった谷六店をフランチャイジーとして経営するという方法を選択したことが認められる。これは、被告が戦略上新規出店を要すると判断したときは、被告は事業計画を立案の上、原告がフランチャイズによる新規出店を優先的に実施できるようにし、原告は、自らの都合により新規出店が不可能な場合には、被告自らの出店又はフランチャイズ出店を認めるという前記育和公園店契約に沿った措置であって、原告も前記救済措置によって杭全店の出店に同意し、現実に救済手段を選択しているのであるから、被告が育和公園店契約に違反して杭全店を出店したとは認められない。他に、被告が原告に対し、杭全店を新規出店してはならない義務を負っていたと認めるに足りる証拠はない。
2 谷六店について
請求原因4(一)の事実のうち、被告が原告に対し、谷六店は被告直営店の中でも屈指の高業績店であり、業績は将来にわたって更に向上する見通しであると伝えたこと、同4(二)(谷六店契約の締結)の事実、同5(二)の事実のうち、原告が谷六店を開店した昭和六一年一〇月三〇日から一年以内に、谷六店近辺にローソン店を数店開店したことは当事者間に争いがない。そして、証拠(乙二〇)によれば、谷六店開店後一年以内では、谷六店の半径五〇〇メートル以内の位置にあるローソン上本町三丁目店が昭和六二年八月二八日に開店したこと、谷六店から半径一キロメートル以内にあるローソン島ノ内二丁目店が同年一月二三日に、同博労町一丁目店が同年九月二五日に、同木町店が同年一〇月二日に、それぞれ開店したことが認められる。
しかしながら、谷六店例約には、被告が如何なる地域にも、自ら直営店を出店しあるいはフランチャイズ店を出店できる旨の条項があることは、右に述べたとおり当事者間に争いがない(請求原因4(二))から、、被告が経営戦略上の判断に基づき右各ローソン店を出店したことは、谷六店契約に違反するものではないし、地下鉄の駅の出入口という谷六店の恵まれた立地条件と、コンビニエンスストアの商圏は一般にそれほど広いものではないと考えられることからすれば、原告が谷六店を経営するに至った経緯を考慮しても、右の出店が谷六店に及ぼした影響が、被告のフランチャイザーとしての信義則上の義務に反するほどのものであったとも認められない。
原告は、被告が谷六店契約締結に当たって、谷六店の半径1.2キロメートル以内に新たな出店をしないことを合意した旨主張するけれども、右合意を裏付ける書面等は存在せず、他に右主張を認めるに足りる証拠はない。
以上によれば、競合店開店義務違反をいう原告の主張は、理由がない。
四 指導援助義務違反について
1 請求原因5(三)(1)の事実のうち、本件各契約上、被告が原告に対し同①ないし⑧に関する指導援助を行うべき義務を負っていることは当事者間に争いがない。そして、証拠(乙四ないし一二の3、二五ないし三〇、三二、証人田中信欣)及び弁論の全趣旨によれば、被告が原告店舗の営業に関して行った指導援助については、以下のとおり認められる。
(一) 店舗の建設、改造及び改装に関する指導援助
被告は、ローソン仕様の店舗レイアウト図を作成し、コンビニエンスストアとして被告が適切と考えている仕様の店舗建設を指導した。
(二) 売場構成、商品提供、商品配置、商品陳列、商品管理及び設備機器類に関する指導援助
被告は、原告に対し、商品の陳列方法や特別価格商品等の記載のあるウィークリーレポートや新商品台帳兼発注控を毎週送付し、商品台帳兼発注控を毎月送付して、商品情報を提供するとともにほとんどの販売商品の仕入の便宜を図っている。
(三) 開店に関する指導援助
被告は、育和公園店が新規開店する際、広告やオープンセール商品の供給を行った。
(四) 教育研修に関する指導援助
被告は、原告に対し、オープン前研修訓練課程と称する研修を実施した。
(五) 販売促進活動に関する指導援助
被告は、ローソンのイメージを定着させるためのテレビ・ラジオなどの広告や、ローソンという冠称を付したイベントを行った他、各季節に合わせた広告内容等を記載した店頭幕、ポスターを原告に配付した。
(六) 経理会計業務に関する指導援助
被告は、原告の仕入商品の代金支払を代行しているほか、毎月の損益計算書や貸借対照表等の財務諸表の作成を行っている。
(七) その他店舗運営に関する指導援助
スーパーバイザーと称する被告の担当者が、月四回程度原告各店を巡回し、商品陳列方法、販売方法及び売上金管理等について、改善を要する点を記載したスーパーバイザーレポートと称する書面を作成して、原告に閲覧させている。
(八) 店舗の販売用商品及び営業用消耗品の仕入先推薦に関する指導援助
多数の販売用商品及び営業用消耗品の仕入先を被告が紹介することにより、多種類少量の品揃えを可能としている。
2 右に認定した被告の指導援助が、本件各契約に基づく指導援助義務を尽くしたといえるか否かを検討すると、被告が具体的に如何なる指導援助をすべきかについて、そもそも本件各契約上は抽象的に規定されているものが多く、被告が義務に違反したか否かは、被告が全くこれを怠った場合を除き、即断し難い事柄であるが、証拠(甲一、五)及び弁論の全趣旨によれば、本件各契約上、被告による原告各店の経営に必要な指導援助が契約の目的とされ、右指導援助がチャージの対価として規定されており、原告も被告の巨大な経済力を背景にした専門的な経営知識に期待して本件各契約を締結したことが認められるところ、被告の行った前記(一)ないし(八)の指導援助は、いずれも被告の経済力及びコンビニエンスストア経営に関する専門的知識を背景として可能となるものであるといえる上、特に(二)の商品供給については、コンビニエンスストアで販売される多種類の商品を少量ずつ個人で仕入れることは極めて困難であるから、被告の援助なしにはコンビニエンスストアで必要とされる商品の仕入れすらままならないといえるのであって、これらの事実を考慮すれば、被告は本件各契約に基づく指導援助義務を一応履行したものというべきであり、それ以上にどのような具体的な内容の指導援助が契約上予定されていたかは、原告の主張においても、証拠上も明らかではないから、結局この点の原告の主張は理由がない。
3 原告は、「原告各店が長期にわたって損失を重ねたのであるから、被告は、その原因を究明して有効な具体的対応策を提示し、対応策を見い出し難いときは、原告に対し早期に閉店を勧告すべきであった。」旨主張するが、そもそも原告各店の経営責任が原告に存することは争いがなく、原告各店の損失も基本的には原告に責任が存するのであるから、被告としては、原告各店の店舗運営に関し、前記認定のスーパーバイザーによる改善を要する点を指摘することで指導援助を尽くしたものと認められ、それを超えて更に何らかの対策を講じたり、原告に対して閉店を勧告すべき義務まで負っていると認めることはできない。
以上によれば、被告の指導援助義務違反をいう原告の主張は、理由がない。
五 総値入高方式について
1 原告は、一般に「荒利」といわれるものは、売上高から売上原価を控除したものであるところ、被告が用いる「総値入高」は、一般の「荒利」に見切等の売価額を加えたものであるから、被告は、チャージとして「荒利」の三五パーセントの他、見切等の売価額の三五パーセントをチャージとして取得している旨主張する。まず被告が見切等の売価額ないし荒利益相当額のいずれの三五パーセントをチャージとして取得しているのかを検討する。
証拠によれば、被告の採用している総値入高の計算方法に関し以下の事実が認められる。
(一) 被告がフランチャイジーから受領するチャージは、被告がフランチャイジーに提供する指導援助、サービスの対価の性質を有するもので、総値入高の三五パーセント相当額であり、総値入高は概括的には、「売上高―売上原価+見切・処分の売価額+棚卸ロス」という算式で算出される。「見切」とは当初売価から値下げして販売した場合の値下げ額をいい、「処分」とは賞味期限の到来により廃棄処分となった商品の売価ないし仕入額をいい、「棚卸ロス」とは、実地棚卸額と帳簿在庫高の差額をいう(争いがない)。
(二) 総値入高の算出は毎月行われるが、実地棚卸を実施する月と実施しない月では計算方法が異なっている。すなわち、実地棚卸を実施しない月には、月次概算総値入高として、「月間商品売上高―月間商品売上原価(当該月初原価在庫額+当該月商品仕入原価高―当該月仕入割戻し高―当該月末原価在庫額)+見切処分の売価額+ロス引当として月間商品売上高の二パーセント」という計算式で計算される。実地棚卸が実施される三か月ごとに、本来の棚卸ロスを算出し、棚卸ロスを売価で表示して、総値入高が計算される(甲一、五、乙四〇、四一、四四、証人福尾博美、証人中村彰)。
原告は、売上高から売上原価を控除した後に見切等を売価で加算して総値入高を算出しているから、加算された見切等の売価額がチャージ対象となっているものと主張する。しかしながら、右の月次概算総値入高の売上原価の計算方法によれば、月初めの在庫及び当該月に仕入れた商品から、月末に在庫として残存している商品を控除した額は、すべて売上原価を構成するものとされているから、処分によって廃棄されてしまった商品、棚卸ロスとなった商品のように現実には販売されなかった商品や、販売はされたが予定売価から値下げして販売された商品の仕入原価も、すべて当該月の売上原価を構成していることが明らかである。そうすると、仮に売上高から売上原価を控除した売上総利益に見切等の仕入原価額を加算したものにチャージをかけることとすると、見切等の仕入原価額は売上原価として売上高から控除されていることから、同額の見切等の仕入原価額を加えても、プラスマイナスで相殺されてゼロとなり、見切等は何らチャージの対象とならないことになる。これに対し、売上総利益に見切等の売価額を加算して総値入高を求めこれにチャージをかけることとすると、売上原価として売上高から控除されている見切等の仕入原価額と見切等の売価額の差額、すなわち見切等の荒利益相当額がチャージの対象となる。したがって、被告の採用している総値入高の計算方法は、見切等の荒利益相当額をチャージ対象としてチャージを算出する計算方法といえる。
これに対し、原告は、企業会計原則の一環をなす原価計算基準によれば、当期の売上原価は、当期の売上高に対応するものでなければならず、売上原価には見切等の原価分を含めてはならない旨主張する。しかしながら、右企業会計原則及び原価計算基準は適正な期間損益計算の実施という見地からの基準を定めたものに過ぎず、被告の提供するサービス等の対価であるチャージの算出方法においてこの基準と異なる売上原価の計算方法を採用することが直ちに私法上違法評価をもたらすとはいえないから、被告がチャージの算出のため売上原価に見切等の仕入原価を含めること自体が、原告に対する関係で直ちに違法性を帯びるとは認められない。
以上によれば、見切等について荒利分だけではなく売価額をチャージ対象としているという原告の主張は、理由がない。
2 また、原告は、見切等は、実際には販売されなかったか、あるいは予定売価で販売されなかった商品であり、売上高として実現しなかった商品であって、その商品が販売された場合の収入としての現金は、原告各店には現実には存在しないのであるから、見切等をチャージ対象とするのは原告の利益としての現金を収奪するものであるとして、被告の採用する総値入高の計算方法は違法である旨主張する。
確かに、見切等は、売上高として実現しなかった商品であって、その商品の販売代金としての現金収入は存在しない。しかしながら、そのことから直ちに、見切等の荒利益相当額をチャージの対象とする被告の総値入高の計算方法が原告の利益を収奪する計算方法として違法となるものではなく、その違法性は、原告が商品の販売代金としての現金収入を得られない、いわば計算上のものである見切等の荒利益相当額をチャージの対象とする会計方法ないしその目的が、本件各契約における原告及び被告の地位及び信義則に照らし、公序良俗に反するものであってはじめて認められるというべきである。
本件各契約において原告は自己の責任で原告各店を経営するものとされていることは当事者間に争いがなく、証拠(甲一、五、乙二六、証人中村彰)によれば、商品の仕入先は被告が認めた場合を除いて被告とされており、したがって、仕入れ可能な商品の種類については一定の制限があるものの、商品の仕入数量については一部を除いて制限はなく専ら原告の判断に委ねられていること、被告が見切等の荒利益相当額をチャージの対象とした目的は、ローソン店において実際には販売された商品について廃棄処分と被告に報告し、売上高を過小に申告して不正にチャージの支払を免れるのを防止するためであることが認められる。原告は、被告が「押込み」と称して原告が発注していない商品を強制的に納入する旨主張するが、右事実を認めるに足りる証拠はない。そうすると、商品仕入の段階で販売可能な商品の種類と数量を予想し、その予想に基づいて商品を仕入れるのは原告の責任で行うべきであることから、見切・処分による損失については原告が負担すべきことになる。また、棚卸ロスも、ローソン店経営に付随して発生する損失であり、本件各契約を前提とすると、原告の負担すべき損失といえる。もとより、見切等の損失を負担することと、見切等の荒利益相当額をチャージ対象とすることとは、直ちに同列に論ずることができないとしても、見切等の荒利相当額をチャージ対象とする目的として被告が主張するフランチャイジーによる売上高の過少申告によるチャージ逃れ防止ということには一応合理性があること、証拠(乙四五の一)によれば、昭和六一年一一月から平成五年一〇月までの間に見切等を対照としたチャージ総額は一一三万九二三六円であり、平均で年間一六万円に過ぎないことを併せ考えると、見切等の荒利益相当額を対象とすることが、本件各契約における原告と被告の法的地位及び信義則に照らし、公序良俗に反するような違法性を有すると認めることはできない。
以上によれば、見切等の荒利相当額をチャージの対象とする総値入高の計算方法が違法である旨の原告の主張は、理由がない。
3 原告は、原告各店において大量の見切等が発生したのは、被告が商品を原告各店に配送する時間を事前の通告なく度々変更したためである旨主張する。
確かに、原告各店への商品の配送時間が事前の通告なく変更された場合には、これによって見切等が発生することは否定できないが、証拠(証人田中信欣)によれば、原告各店を含むローソン店への商品配送経路は、季節の違いによる物量変動を理由として、春と秋の年二回変更されるのみであることが認められるから、配送時間の変動によって大量の見切等が発生するとまでは認められず、原告の主張は理由がない。
4 原告は、被告が棚卸を意図的に不正確に行って棚卸ロスを増加させて棚卸ロスにかかるチャージを不正に取得した旨主張する。
しかしながら、証拠(甲一、五、乙四〇、四一)によれば、本件各契約上実地棚卸には原告も立ち合い、原告が実地棚卸の結果に異議がある場合には、被告に対して再度の実地棚卸の要求ができることが認められる。しかし、原告が原告各店において再度の実地棚卸を要求したと認めるに足りる証拠はなく、被告の不正確な実地棚卸を裏付ける資料は存しない。原告は、平成四年四月二四日に被告の実地棚卸の終了後に、再度の数量確認を被告従業員に要求した結果、異なった数値となった際の会話を録音したテープ(甲一〇一)をもって、被告の不正確な実地棚卸の事実を裏付ける根拠としているが、右テープの内容からすると、これが直ちに被告の不正確な実地棚卸を裏付けるものとは認め難く、開店時に棚卸をする制約はあるものの、他に被告ないし被告の委託を受けた棚卸業者が、棚卸を不正確に行って棚卸ロスを増加させた事実を認めるに足りる証拠はないから、原告の主張は理由がない。
5 また、原告は、見切等につき売上高の一パーセントまで売価ではなく原価で計上しているとしても、被告直営店舗の見切等でさえ売上高の一パーセントを超えているのであるから、売上高の一パーセント超部分に相当する見切等にかかるチャージはやはり不当利得である旨主張し、証拠(乙四一、四四、証人福尾博美、証人中村彰)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、昭和六一年三月一日から、見切等の荒利益相当額全額をチャージの対象とするのではなく、見切等のうち、売上高の各一パーセントまではそれぞれ原価計上することにより、結果的にチャージの対象としていないことが認められる。しかし、前記判示のとおり、右の一パーセント原価評価の制度が存在しなくとも、総値入高の計算方法が違法とはいえないのであるから、被告直営店舗の見切等が売上高の一パーセントを超えているか否かにかかわらず、売上高の一パーセントを超える見切等を対象とするチャージが不当利得となることはない。したがって、この点に関する原告の主張も理由がない。
6 また、原告は、被告が平成元年三月一日からチャージ率を三五パーセントから三二パーセントに引き下げたにもかかわらず、谷六店に対しては依然として三五パーセントのチャージ率を適用してチャージを収受し続けたから、被告は同日以降の総値入高の三パーセントの合計額を返還すべき旨主張する。
しかし、チャージ率をどのように定めるか各契約の合意によることであるから、谷六店契約の後で締結された他の契約のチャージ率が谷六店契約より低いからといって、当然に谷六店契約のチャージ率も同率に引き下げられるべきだということにはならない。また実質的にみても、弁論の全趣旨によれば、谷六店は原告が谷六店契約を締結した当初から二四時間営業の店舗であることが認められるところ、証拠(甲五、乙一七)によれば、谷六店契約の契約書第二四条には特別経費分担制度の記載及び二四時間営業店には被告が年間一八〇万円の長期間営業援助金を支払う旨の記載があること、被告の商号が「株式会社ローソン・ジャパン」であった昭和五四年九月一日から平成元年二月末日までの間に発行されたローソンフランチャイズシステムの概要と題する書面(乙一七)には、チャージ率について、二四時間営業の店舗は三二パーセント、それ以外の店舗は三五パーセントである旨の記載があること、発行時期は明らかではないが、ローソン店への加盟を募集するビラにも同様の記載があること、他方、右二つの書類にはいずれも特別経費分担制度の記載があるのに対し、長期間営業援助金の記載はないことが認められる。このように契約書では同じ条項に規定されながら、二四時間営業店のチャージ率が三二パーセントと明記されている文書には、特別経費分担制度の記載がありながら長期間営業援助金の記載がないことに照らすと、右チャージ率の差異の三パーセントは、長期間営業援助金の適用があることによって三五パーセントのチャージ率が実質三二パーセントとなることを意味するものと推認される。また、弁論の全趣旨によれば、右一八〇万円は、同店の総値入高の割合でいえば平均3.2パーセントにあたることが認められる。そうすると、谷六店のチャージ率も実質的には三二パーセントであるといえるから、不公平を生ずるわけではなく、原告の主張は理由がない。
六 以上によれば、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官島田清次郎 裁判官佐藤道明 裁判官春名茂)